連絡の取れない相続人がいると

被相続人が亡くなると、その人の遺産は相続人のものになります。相続人が複数いる場合は、遺産は相続人の共有財産になり、相続人同士の話し合いや遺言によって遺産の分け方が決められます。

遺言がない場合、相続人同士で遺産の分割方法を「遺産分割協議」で決定しますが、遺産分割協議は相続人が「全員」で行うこととされています。これは連絡が取れない相続人がいる場合も例外ではなく、相続人が1人でも欠けていれば、残りの相続人で協議をしたとしても「遺産分割協議」は無効になってしまいます。

預金口座や不動産の名義変更では、「遺産分割協議書」が必要になります。つまり、連絡が取れない相続人を探し出さないと、相続の手続きが進まないことになってしまいます。

ただし、有効な遺言があればそれに従って遺産分割が行われることになります。

戸籍による調査

連絡が取れない相続人がいる場合は、まずその人の戸籍の調査を行います。

戸籍には現住所は記載書されていませんが、戸籍には現住所を記載した「附票」がありますので、これを取得して住所を追跡することができます。

この捜索手続きは相続人の方でも可能ではありますが、専門家に依頼することをお勧めします。戸籍を遡る必要のある場合や、戸籍が遠隔地にある場合などもあり、何回も取得申請を行うことになるなど、慣れない人が行うと時間と手間が掛かってしまします。

連絡が取れない相続人の現住所がわかっても、そこに住んでいない場合もあります。また、海外に住んでいる場合は、戸籍の附票で現住所を確認することができません。こういった場合は、相続人を探し出すことは困難になります。

連絡が取れない相続人が見つからない状況でも、相続にかかわる期限の延長は原則としてできません。相続放棄の手続きは被相続人の死亡から3か月以内、相続税の申告と納税は10か月以内と定められています。

これらの期限に間に合うように遺産分割を進めるためには、「不在者財産管理人」を立てて遺産分割協議を行います。

不在者財産管理人

不在者財産管理人は、行方不明になっている人の財産を、その人に代わって管理する人のことです。不在者財産管理人は原則として遺産分割協議に加わることはできませんが、家庭裁判所の許可を得ることで遺産分割協議に加わることができるようになります。

注意点として、不在者財産管理人は行方不明者が生存していることを前提とした制度ですので、遺産分割協議が終わった後も次のいずれかの時点まで引き続き財産を管理しなければなりません。

 ・不在者が現れるまで
 ・不在者が失踪宣告されるまで
 ・不在者の死亡が確認されるまで

なお、不在者財産管理人から報酬を請求される場合があります。報酬は家庭裁判所を通じて不在者の財産から支払われます。

不在者財産管理人の選任と遺産分割協議に加わるための許可手続きは、不在者の住所を管轄する家庭裁判所で行います。不在者財産管理人が遺産分割協議に加わるための許可手続きは、別途申立書を提出します。

最後の「失踪宣告」

長期にわたって連絡が取れないときや災害に遭って生存の可能性が低い場合は、家庭裁判所に「失踪宣告」を申し立てることができます。失踪宣告を受けると、法律上その人は死亡したとみなされます。

不在者財産管理人を立てた場合も、いつまでも不在者財産管理人の仕事が終わりませんので、失踪宣告の申立てを行うことが多いです。

失踪には「普通失踪」と「危難失踪」があります。

 普通失踪:行方不明になって7年間生死が明らかでない場合

 危難失踪:戦争、船舶の沈没、震災などの危難に遭遇して、その危難がやんだ後1年間生死が明らかでない場合

失踪が宣告されると、普通失踪では行方不明になってから7年後に、危難失踪の場合はその危難がやんだときに死亡したとみなされます。死亡したとみなされることで、行方不明者の相続権はその人の子供などに移ります。

失踪宣告の申し立ては、行方不明者の住所を管轄する家庭裁判所で行います。

もし、失踪宣告された人があとになって現れた場合は、家庭裁判所に失踪宣告の取り消しを求めます。失踪宣告を受けて遺産分割を行った場合は、失踪が取り消されてもすでに行った遺産分割は取り消されません。ただし、受け取った遺産が残っていれば、現れた人に財産を返還しなければなりません。相続した不動産を売って現金に換えたなど、財産の形が変わっていたとしても同様です。