法定後見人の権限の全体像
後見人(保佐人、補助人)としての基本的な職務は、「財産管理」と「身上監護」の双方となります。
財産管理の内容としては、様々な契約の締結であったり、取引(銀行取引等)をしたりすること、年金事務所や区役所等での行政手続を行ったりすることがあります。
また、身上監護としては、施設の入所契約であったり、介護サービスの手配や、体調不良時の病院の入院手続きなどがあります。
これらの職務を遂行するために、後見人等には同意権、取消権、代理権が付与されます。
ただし、ご本人の意思を最優先することが基本な考え方ですので、ご本人の意思能力の程度に応じて、後見人、保佐人、補助人に付与される権限の範囲は、当然に異なってきます。
これを整理したものが以下の表になります。
後見人 | 保佐人 | 補助人 | ||
同意権 | 同意権の有無 | なし(代理権があるため) | あり | |
同意権の範囲 | 民法13条1項の全部の行為 | 民法13条1項のうち定められた行為 | ||
付与の本人同意 | 不要 | 必要 | ||
取消権 | 取消権の有無 | あり | ||
取消権の範囲 | 全ての行為 | 同意権が付与された行為 | 同意権が付与された行為 | |
付与の本人同意 | 不要 | 必要 | ||
代理権 | 代理権の有無 | あり | ||
代理権の範囲 | 全ての行為 | 定められた特定の行為 | 定められた特定の行為 | |
付与の本人同意 | 不要 | 必要 |
権限の種類
後見人(保佐人、補助人)に付与される、同意権、取消権、代理権とは、どういうものかを簡単に説明します。
ただし、これらの権限は、財産に関する法律行為に限定されており、結婚や養子などの身分に関する行為は対象外となります。
ご本人が結婚する或いは離婚するとか、養子にするといった身分に関する行為は、あくまで本人の意思に基づき行われるべきものですから、後見人といえども代理することができません。
同意権
同意権とは、保佐人・補助人が同意をすることにより、ご本人の行う契約を有効にする権限です。
取消権
ご本人が行った法律行為が不利益なものだと判断すれば、取り消すことができる権利です。
しかし、何でも取り消すことが認められているわけではなく、「日用品の購入その他日常生活に関する行為」については、取消しが認められていません。
判断能力が衰えていたとしても、身の回りのちょっとした買い物など、ご本人にとって大きな不利益にならない事に関しては、自己決定権を尊重する考え方が背景にあります。
代理権
代理権とは、代理人が、本人に代わって様々な契約や手続を行う権限です。
たとえば、代理人に土地の購入契約してもらい、その結果、ご本人が土地の所有権を取得し、売買代金を支払う義務が発生するといったことです。
民法13条1項に定める行為
上記の表で、保佐人および補助人の同意権の欄に「民法13条1項」との記載があります。
「民法13条1項」に定めのある行為とは、いずれもご本人が大きな損害を受ける可能性がある重大な法律行為です。そのため、ご本人を保護する観点から、保佐・補助における同意権・取消権の対象行為になっています。
「民法13条1項」に記載されている法律行為とは、具体的には以下の通りのものです。
- 預金を払い戻すこと
- 金銭を貸し付けること
- 借金をしたり、保証人になること
- 不動産など重要な財産に関する権利を得たり、失ったりすること
- 民事訴訟の原告として訴訟行為を行うこと
- 贈与、和解、仲裁合意をすること
- 相続の承認や放棄、遺産分割をすること
- 贈与や遺贈の拒絶、不利な贈与や遺贈を受けること
- 新築、改築、増築や大規模修繕を行うこと
- 民法602条の定める期間を超える長期間の賃貸借契約を行うこと
補助人の権限
こんどは、補助人の権限をもう少し詳しく見ていきましょう。
同意権・取消権
補助類型の場合、ご本人には不十分とはいえ判断能力がありますから、基本的に自ら法律行為を行うことが可能とされています。
ですから、家庭裁判所は本人の保護のために必要と判断した特定の行為についてのみ、補助人に同意権を与える審判をします。同意権の範囲は、民法第13条第1項に定められている行為のうち、家庭裁判所が必要と判断する項目に限定されます。
例えば、家庭裁判所が補助開始の審判と同時に、「借財をすること」について補助人に同意権を付与する審判をした場合には、本人は単独で借金をすることはできず、補助人の同意を得ずに借金をしても後から取り消すことができることになります。
しかし、それ以外の行為については、補助人の同意に関係なく、全て本人が単独で行うことができ、事後的に取り消すこともできません。
同意権・取消権の範囲を、保佐類型と補助類型のケースで比べると、補助類型の方が狭くなっています。
なお、補助類型は、本人申立てでない場合には、同意権・取消権の付与の申立てに、ご本人の同意が必要になります。
代理権
補助人への代理権の付与は、補助開始の審判において当然に付与されるものではありません。
家庭裁判所は申立てのない事項について代理権を付与することはないですし、申立てのあった代理権についても、必要がないと判断すれば付与しないこともあります。
また、代理権の申立てがご本人以外の方による場合、ご本人の同意が必要となります。
保佐人の権限
同意権・取消権
保佐類型の場合でも、ご本人は限定的ではあっても判断能力を有しているため、法律行為を行うことが可能なこととされます。
ただ重大な法律行為によってご本人が不利益を被る場合がありえます。そこで、一部の重大な法律行為については、保佐人の「同意」が必要であると審判されるときがあります。
その際に、先ほど説明した「民法13条1項」に記載されている法律行為が、保佐人の同意を必要とする行為の対象となります。ここに定められた行為は、保佐人が「同意」が必要になります。
また「同意を要する行為」は、申立てによって、対象範囲を増やすことができます。
ご本人が保佐人の同意なく重大な法律行為を単独で行った場合、保佐人は後からこの契約を取り消すことができます。つまり、保佐人の同意権と取消権は表裏一体の権限であるといえます。
保佐類型の場合には、同意権・取消権の申し立てには、ご本人の同意は必要ありません。
代理権
保佐人の代理権も、保佐開始の審判時に当然に付与されるものではありません。
ご本人の同意を得て、範囲を特定した法律行為についての代理の申立てが必要になります。この申立てに基づき、家庭裁判所が代理権を付与する旨の審判がされて、初めて保佐人に代理権が付与されます。
補助や保佐の場合と同様に、家庭裁判所は申立てのない事項について代理権を付与しませんし、申立てのあった事項についても、必要がないと判断すれば付与しないこともあります。
代理権付与の審判の後に、さらに別の法律行為についても代理権が必要となった場合は、別途、代理権付与の申立てをおこないます。この場合も、申立てには本人の同意が必要になります。
後見人の権限
同意権・取消権
後見類型の場合、ご本人は判断能力を欠いた状況にありますので、ご自分のためになる契約行為は困難な状況にありると考えられます。
そのため後見人には同意権はありませんが、取消権があるため、必要に応じての取り消しが可能になります。後見人はご本人が行った法律行為を不利益なものだと判断すれば、取り消すことができます。
代理権
ご本人は常に判断能力を欠いている状況にありますので、後見人には包括的な代理権が与えられます。包括的な代理権というのは、通常は代理に際して委任状が必要ですが、これ無しに法律行為を代理できます。
ご本人は判断能力を欠いた状況にありますので、後見の申し立てにはご本人の同意は必要ありません。