法定後見の終了事由

どのような場合に法定後見は終了するのか、見ていきましょう。

ご本人の死亡

ご本人(被後見人)が亡くなられると、当然、法定後見は終了します。
この場合には、後見人(保佐人、補助人)から、家庭裁判所に、亡くなられたご本人の死亡診断書または死亡の記載のある除籍謄本の提出することにより、法定後見は終了します。

後見人の辞任

後見人(保佐人、補助人)に正当な理由がある場合は、家庭裁判所の許可を受けて後見人を辞任することができます。これにより、法定後見は終了します。

正当な理由とは、老齢や病気などのため後見事務の執行が困難な場合や、遠隔地に住所を移したため後見事務に支障がある場合、また後見人とご本人や親族等との関係の悪化などが考えられます。

ただし、後見人の辞任と新たな後見人の選任はセットになっていますから、後任の後見人が選任されないと辞任はできません。

後見人の解任

後見人(保佐人、補助人)に「不正な行為」や「著しい不行跡」、「後見の任務に適しない事実」がある場合には、家庭裁判所は申立てにより、または職権により成年後見人を解任することができます。

この場合、解任の申し立てを行うことができるのは、ご本人、ご本人の親族、後見監督人、検察官です

「不正な行為」としては、後見人がご本人の財産を横領するなど、民法上の不法行為や、刑法に触れる犯罪行為があります。

「著しい不行跡」としては、成年後見人が裁判所の求めに応じなかった場合や、職務上の義務を果たさない場合、職権を濫用する場合などがあります。

「後見の任務に適しない事実」としては、後見業務の怠慢、家庭裁判所の命令への違反、ご本人との関係破綻などがあります。

後見人が、これらの解任に相当する行為により、ご本人に損害を与えたときは、損害賠償責任を負うことになります。

後見開始の審判の取り消し

ご本人の意思能力が回復したときは、ご本人、親族、後見人等の申立てによって家庭裁判所は後見開始の審判の取消しを行うことがあります。この審判によっても後見は終了します。

このケースは、認知症のお年寄りではなかなか難しいことなのですが、精神障がいの方が精神病院からの退院などによって審判の取り消しとなることがあります。

後見人の欠格事由の発生

後見人(保佐人、補助人)になるために必要となる資格は特にありませんが、後見人になることができない人の条件は規定されています。この条件に該当する人は成年後見人になることができませんし、後見人がこれらの条項に該当するようになると成年後見人を継続することができなくなります。その条件とは以下の通りです。

未成年者

未成年者は、判断能力が社会経験不足などにより未熟で、財産管理等を行う後見人としての適切な職務の遂行が期待できません。

後見人などを解任されたことがある者

過去に後見人(保佐人、補助人)に選任されたものの、家庭裁判所から解任されたことがある人のことをいいます。家庭裁判所から後見人を解任されたということは、何らかの不適切な行為があったということです。

破産者

破産者は自分の財産管理権も失っているため、他人の財産管理を行う適格があるとは考えられません。

ご本人に対して訴訟を起こした者、その配偶者および直系血族

ご本人に対して訴訟を起こした人は、ご本人と利害が対立する関係にあります。その配偶者や直系血族の方にも利害の対立関係が及ぶと考えられます。

これらの人たちは、ご本人の利益のために財産管理や身上監護を適切に行うことは考えられません。

後見人の死亡

後見人が死亡したときは、ご本人とその後見人との間の後見事務は終了します。

この場合、死亡した後見人の相続人が後見終了後の事務処理をすることになり、家庭裁判所は申立てまたは職権により後任の後見人を選任することになります。

法定後見終了時の事務

後見の任務が終了しても、後見人には事務作業が残っています。

財産目録の作成

後見の任務が終了したときは、2か月以内にその管理に関わる「後見の計算」をしなければならないと定められています。

「後見の計算」というのは、後見人に就任していた期間の収入と支出について計算し、財産の変動と現状を明らかにすることです。具体的には、後見期間中の収支をまとめたうえで、終了時の財産目録を作成します。

預貯金等の財産管理の代理権が付与されていない保佐人や補助人は、これら書類作成の権限がありませんから、提出の必要はありません。

成年後見登記の申請

ご本人の死亡で後見が終了した場合は、後見人が「後見終了の登記」の申請をしなければなりません。

なお、後見人が辞任した場合などは、後見終了の登記は裁判所の嘱託で行われます。

財産の引き渡し

後見人が辞任あるいは解任された場合は、後任の後見人にご本人の財産を引き渡します。

ご本人の死亡により後見が終了した場合は、遺言のある場合は遺言執行者に、法定相続人がある場合は法定相続人に、ご本人の財産を引き渡します。

遺言もなく、法定相続人もいらっしゃらない場合は、家庭裁判所の選任する相続財産管理人に引き渡しすることになります。

家庭裁判所への報告

後見人は法定後見の職務が終了した場合は、家庭裁判所にその旨の報告を行います。提出物としては以下のようなものがあります。

  • 後見事務報告書
  • 財産目録
  • 後見登記事項証明書
  • 財産引き渡しの受領書

亡くなられたご本人に相続人がいない場合

亡くなられたご本人に相続人がいない、あるいは相続人はいらっしゃっても疎遠な場合があります。こうした場合に、後見人はどのような行動をとる必要があるのでしょうか。

死亡に関する届け出

戸籍法改正により、後見人も死亡届の提出ができるようになりました。

死亡届は、死亡の事実を知った日から7日以内に市区町村に提出する必要がありますので、後見人が死亡届を提出せざるをえない場合があります。

ご葬儀の主催

成年後見人は、民法改正により、ご本人の相続人が相続財産を管理するまでの期間、次に掲げる行為をすることができるようになりました。

  • 相続財産に属する特定の財産の保護に必要な行為、
  • 相続財産に属する債務の弁済、
  • その死体の火葬又は埋葬に関する契約その他相続財産の保存に必要な行為

ただし、永代供養や納骨はこの範囲に含まれませんので注意が必要です。また、これらの立て替え費用の清算がうまく進まないこともありますので、注意が必要です。

最後に

お亡くなりになった後に円滑な事務手続きを進めるためには、やはり遺言を作成しておくことであるとか、死後事務委任契約を締結しておくことが望ましいと考えます。

遺言や死後事務委任契約があることにより、事務手続きが円滑に進むだけでなく、亡くなられたご本人の希望通りに手続きを処理することが可能になるからです。