特別代理人が必要になる場合
特別代理人は、父・母(親権者)と未成年の子どもの利害関係が衝突するときに、未成年の子どもの利益を守る役割を持つ人のことです。
法律では、父・母(親権者)と、その未成年の子どもとの間で利益が相反する行為(利益相反行為といいます)をするときは、子どもの利益を守るために特別代理人の選任を家庭裁判所に申し立てることになっています。
父・母の下で、複数の子どもがいる場合に子ども同士の間で利益が相反する場合や、未成年後見人と未成年者の間の利益相反する場合についても、同様に特別代理人の申立てが必要となります。
利益相反行為とは、親の利益になるが未成年の子どもにとっては不利益になる行為です。また、一方の子には利益になるが、他方の子にとっては不利益になる行為も利益相反といえます。
具体的にどのような行為が利益相反行為に該当するか、以下に例示してみます。
- 夫が死亡し、妻と未成年者の子どもで遺産分割協議をする場合(妻が親権者として、子どもの相続分を減らして、妻の相続分を増やす可能性が考えられる)
- 複数の未成年者の法定代理人として遺産分割協議をする(法定代理人が、特定の未成年者の相続分を増やす可能性が考えられる)
- 親の債務の担保のため未成年の子どもが所有する不動産に抵当権を設定する(親の債務保証のため、子どもの財産を危険にさらす可能性がある)
- 相続人である父・母が未成年の子どもについてのみ相続放棄の申述をする(子どもの相続分を放棄させ、親の相続分を増やす可能性が考えられる)
- 同一の親権に服する未成年の一部の子どもだけ相続放棄の申述をする(特定の未成年者の相続分を増やす可能性が考えられる)
- 後見人が15歳未満の被後見人(子ども)と養子縁組する(被後見人の財産を狙った養子縁組の可能性が考えられる)
特別代理人の申立て手続き
申立て
特別代理人の選任手続きは、子どもの住所地の家庭裁判所に「特別代理人選任申立書」に必要書類を添付して申立てます。申立てが出来るのは、親権者または利害関係人です。
申立書には「特別代理人候補者」を記載しますが、特別代理人になるのに資格制限はなく、申立て事案について利害関係がなければよいとされます。
添付書類
特別代理人の選任の申立書には以下の書類を添付することが必要です。場合により、家庭裁判所からさらに追加書類を求められることもあります。
「利益相反に関する資料」として遺産分割協議書案等の添付が必要になり、これも審判の対象になります。そのため、申し立てを行う前に未成年者に不利にならない内容で遺産分割協議を成立させておくことが前提となります。もし未成年者に不利な内容の遺産分割協議案であれば、その合意に至った合理的な理由を説明しなければなりません。
特別代理人の選任
申し立てを受けた家庭裁判所は、特別代理人候補者と未成年者との関係や、利害関係の有無などを考慮して、適格性が判断されます。この際に、家庭裁判所から特別代理人の候補者に質問状などが送付され、定格性の判断の参考とされることがあります。
家庭裁判所が特別代理人の選任を認めたときには、「選任審判書」の謄本が申立人と特別代理人に送付されます。
この際に、家庭裁判所が申立書記載の候補者が適任でないと判断した場合は、家庭裁判所が特別代理人を選任することもあります。
特別代理人は、審判書に記載された審判で決められた行為に限り、代理権を行使することができます。そのため、審判で決められた行為が終了した時点で、特別代理人の代理権も消滅します。
成年被後見人における特別代理人
親権者と未成年者のケース以外にも、成年後見において特別代理人の選任が必要なときがあります。
ご本人(成年被後見人)とその後見人が利益相反の関係になった場合には、同様に特別代理人を選任する必要があります。例えば、成年被後見人とその後見人が同時に相続人になった場合などです。
ただし、後見人に「後見監督人」が付いている時には、後見監督人が代理人の役割を担うため、特別代理人の選任は必要はありません。
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