従来の自筆証書遺言の課題
従来の自筆証書遺言は、遺言者が全文を自書した上で、日付をつけた署名を行い、さらに捺印をすることが必要でした。
遺言書の全文を自書することは、当然のことですが、高齢の方には大変な作業です。また、パソコン利用が当たり前の現代では、高齢でない方にとっても、長文を自書することはかなり苦痛を伴う作業だと思います。
このようにかなりの労力を要することが、自筆証書遺言の利用の妨げる大きな原因となっていたことが推測できます。
そうした背景から、自筆証書遺言の方式の緩和を内容とする民法改正が2019年に施行されました。
自筆証書遺言の方式の緩和の内容
添付書類
遺言書には、通常、財産目録を添付します。
財産目録とは、遺言者の所有する不動産や預金などの財産を特定する情報を纏めたものです。通常は以下のような情報を整理してまとめますので、かなり手間がかかります。
財産の種類 | 財産を特定するための情報 |
土地 | ・所在 ・地番 ・地目 ・地籍 |
建物 | ・所在 ・家屋番号 ・種類 ・構造 ・床面積 |
預金 | ・金融機関名 ・口座種別 ・口座番号 ・口座名義人 |
改正民法においては、「自筆証書にこれと一体のものとして相続財産の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない」ということになりました。
要するに、財産目録は自書でなくとも良いということです。
この具体的な方法としては、例えば以下のようなものが考えられます。
・遺言者本人がパソコン等で相続財産目録を作成し印刷して添付する
・遺言者が、他者に相続財産目録を作成してもらい添付する
・相続財産を特定する書類の複写を添付する(不動産の登記事項証明書、預金通帳など)
一体のもの
自筆証書遺言に財産目録を添付する方法については、特別な定めはありません。
したがいまして、本文と財産目録とをステープラー等でとじたり、契印したりすることは必須ではありません。しかし条文には「一体のものとして」とありますから、遺言書の一体性を明らかにする観点からは、綴じたり契印などの処置が望ましいと考えられます。(自筆証書遺言の保管制度を利用する場合は、ステープラでとじたり、契印する必要はありません)
また、遺言本紙と財産目録との論理的な関係も明確に分かるようにしておきます。
例えば、不動産の登記事項証明書のコピーを添付する場合にはこれに「別紙1」などと記入し、遺言本紙には「別紙1の財産を〇〇に相続させる」と明記し、遺言本紙と添付書類の関係を明確にしておきます。
署名・捺印
自筆証書遺言の添付書類については、自書以外の方式が認められることになりました。
しかし、あくまで遺言者本人が関与した証憑として、全ての添付書類に自書署名を行い、捺印することが必要です。また、両面印刷・複写された添付書類には、両面それぞれに自書署名と捺印が必要ですので、注意して下さい。