※この記事は「家族信託終了後の財産の行方」の続きです。
家族信託はどのような場合に終了するのでしょうか。
見ていきましょう。
委託者と受益者が信託終了に合意した場合
家族信託は、「委託者」と「受益者」の合意により、いつでも終了させることができます。
ここで「委託者」が指定されているのは、家族信託が「委託者」の意思の実現を主目的として設定されるものだからです。
次に「受益者」が指定されるのは、家族信託から利益を得るのは受益者であり、「受益者」がもっとも強い利害関係を持っているためです。
そのため、信託の目的を設定した「委託者」と、利害関係の強い「受託者」の両者が信託終了に合意することにより、信託存続の必然性が失われますから、信託が終了することになります。
一方で「受託者」も「信託報酬を受け取る」などの点で、信託から利益を得る立場にあるとも云えます。
ですが信託理論では、「受託者」はあくまでも受益者のために行動する役割とされますので、信託終了の要件として受託者の同意は必要ないとされています。
ただし、委託者・受益者が信託終了により受託者に損害を与えた場合は、受託者の損害を賠償することが必要になります。
信託契約で家族信託の終了事由を定めた場合
家族信託の終了事由は、信託契約において定めておくことができます。
この場合の終了事由は、家族信託の目的に応じて定めるべきものです。
例えば、認知症対策を目的とした家族信託であれば、親御様(受益者)が亡くなられると、家族信託の目的は達成されたことになりますので、信託存続の必要性は失われます。ですから、この場合は受益者の死亡を家族信託の終了事由とするのが適当でしょう。
あるいは、幼い子どものための財産管理を目的とする家族信託であれば、子どもが成人に達した場合に、家族信託を終了することが一般的です。
このように、信託契約を作成する際に、家族信託の目的に応じた終了事由を定めておくことが必要です。
その他の家族信託の終了事由
これまで説明した以外にも、信託法には信託終了事由の定めがあります。
それが以下の各項目です。
(1)信託目的を達成したとき或いは信託の目的達成が不可能になったとき
信託の目的を達成したとき、或いは達成不可能なことが確定した場合には、それ以上家族信託を存続させる理由や利益がないので、当然に信託は終了します。
(2)受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が1年間継続したとき
信託とは、受託者が受益者のために財産の管理を行う仕組みです。
そのため「受託者=受益者」の状態が一定期間継続している場合は、家族信託を存続させる意味がありませんので、当然に信託は終了します。
(3)受託者がいない状態が1年間継続したとき
財産管理を行うべき受託者がいなければ、信託の仕組みは機能しません。
そのため、受託者のいない状態が一定期間継続した場合には、信託は終了します。
受託者が複数定められている場合には、受託者全員がいない状況が1年間継続した場合に、信託の終了事由となります。
(4)受託者が信託法52条の規定により信託を終了させたとき
信託法52条では、信託事務を処理するための必要経費は信託財産から支出する旨を定めています。
信託財産から必要経費の支出が困難になった場合、受託者が信託契約を終了させることが可能とされています。
(5)信託の併合がされたとき
複数の信託が併合された場合、それらは合わさって一つの信託となります。このとき、併合前の従前の信託は当然に終了します。
(6)信託の終了を命ずる判決があったとき
特別の事情がある場合や、公益確保の必要がある場合には、裁判所への申立てによって信託を終了できる場合があります。
(7)信託財産について破産手続開始の決定があったとき
破産した信託財産は、受託者ではなく破産管財人に管理・処分が委ねられます。
この場合、当初の信託の機能が失われるため、信託の当然終了事由とされています。
(8)委託者が破産手続開始の決定、再生手続開始の決定または更生手続開始の決定を受けた場合に、破産法および民事再生法または会社更生法の規定による信託契約の解除がされたとき
上記の各法的整理手続きにおいて、債務者が締結している契約が双方未履行となっている場合、破産管財人・再生債務者・管財人は当該契約を解除することが認められています。
この記事は、ここまでになります。