遺言執行者の意義
遺言執行者は、遺言が有効になった際に、遺言の内容を実現する役割を担う人のことです。遺言執行者には、遺言内容を実行する一切の権利と義務を有しており、相続に重要な役割を担う立場です。
法的に遺言執行者を選任しなければならない場合が定められていますが、これは限定された場合になります。
それ以外のケースでは、必ずしも遺言執行者を選任する義務はなく、相続人が協力して相続の手続きを進めていくことになります。
しかし、遺言について相続人同士の利害対立による意見の不一致がある場合や、一部の相続人の非協力的な行動により、公正・迅速な遺言執行が妨げられる場合もあります。
また、相続人が多かったり、遠隔地に居住していて連絡がとりにくかったりすると、手続きに手間取ることもあります。
一般的な遺言執行の場合でも、普通の生活を送る社会人にとって遺言執行は初めての経験となることが多いでしょうから、専門的な知識やノウハウがないため思わぬ手間や時間がかかることがありますし、仕事を持っている相続人はそうした諸手続きの時間を確保することが難しいケースも多いです。
こうした場合に、専門職の遺言執行者を選任していれば、遺言執行者だけで手続きを進められますので、相続手続きをスムーズに行うことができます。
遺言執行者が法定となる場合
法的に遺言執行者の選任が必要となるのは、以下のように遺言に相続人の身分に関わる記述のある場合です。
廃除、廃除の取り消し
推定相続人の相続廃除とは、遺言者の相続人となると推定される人が、遺言者に対して虐待や侮辱を行っていた場合、遺言によってその相続人の相続の権利を廃除することです。相続人の廃除や廃除の取消しを行うためには、遺言執行者が家庭裁判所で手続きをする必要があります。
認知
子の認知とは、婚姻関係にない人との間に生まれた子どもを自分の子どもと認めることです。遺言で子の認知が行われると、認知された子どもは相続人となることができます。この場合でも、遺言執行者が認知届を役所に提出する必要があります。
遺言執行者の指定方法
遺言執行者の要件
未成年者と破産者以外であれば、誰でも遺言執行者になることができます。この条件に該当するかどうかの判定は遺言書作成時ではなく、遺言者の死亡時点になります。
また民法改正により、遺言執行者には「相続開始後すみやかに手続きを行うこと」が求められることになりましたので、これを実現できる時間的余裕と知識を有する人を選ぶことが必要となりました。
遺言による遺言執行者の指定
遺言者が遺言書の中で遺言執行者を指定する方法です。
遺言執行者の指定にあたっては、遺言執行者が亡くなったり辞退する場合がありますので、複数名を指定することも可能です。
遺言書に記述する一般的な遺言執行者選任の例を以下に示します。
第〇条 遺言者は、この遺言の遺言執行者として、次の者を指定する。 住所 東京都〇〇区〇〇〇〇 △ー△ー△ 職業 〇〇〇〇 氏名 〇〇〇〇 生年月日 〇年〇月〇日 第〇条 遺言執行者は、帆に言執行のため名義変更、預貯金の解約及び換金等 並びに保護預かりに関する会計、内容物の受領及び契約に係わる解約等 一切の権限(各手続又は行為をするにあたり相続人の同意は必要としない) を有する。 |
遺言執行者として指定する人にその旨を伝えておく方がベターですが、必ずしも事前に遺言執行者となることの同意を得ておく必要はありません。何れにしろ、遺言内容をしっかり実行してくれる人を選任することが大事です。
また、遺言書に遺言執行者を指定する人を記載しておくという方法もあります。つまり、遺言書には遺言執行者を明記しておかず、遺言執行者を選任する人を指定しておく方法です。こうした方法は、遺言作成から遺言執行までの期間が長期になると見込まれる場合などに有効と思われます。
遺言執行者の報酬は、遺言書に定るべきではありますが、定めのないときは、家庭裁判所が報酬を決定します。遺言執行者の報酬は、相続財産から支払われます。
家庭裁判所による遺言執行者の指定
遺言執行者が遺言により指定されていないとき、あるいは遺言で指定された遺言執行者が亡くなったときや辞退したときには、家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てることが出来ます。
申し立てが出来るのは、相続人、受遺者、遺言者の債権者で、申し立ての際に家庭裁判所に遺言執行者の候補者を伝えることができます。
遺言執行者の解任・辞任
遺言執行者に選任された人がその任務を全うできなければ、辞任も可能です。辞任の場合も、家庭裁判所へ申し立てが必要になります。
遺言執行者が義務を果たしていない状況であれば、相続人などが家庭裁判所に申し立てることにより解任することができます。
※続編の「遺言執行者の権限と義務とは」に続きます。