自筆証書遺言の保管制度の意義

2020年7月に「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が施行されました。

この法律により、法務局で自筆証書遺言を保管することができるようになりました。

これまで、自筆証書遺言は、相続人に発見されないとか、あるいは廃棄されてしまうなど、遺言者の意思が反映されない可能性がありました。

しかし、公的機関が保管することにより、こうした不安が解消されることになります。

自筆証書遺言の保管手続き

申請先

自筆証書遺言の保管を申請先は、以下の何れかを管轄する法務局になります。

・遺言者の住所地

・遺言者の本籍地

・遺言者が所有する不動産の所有地

保管の申請時には、他人による成りすましや偽造を防ぐため、遺言者本人が法務局に出頭する必要があります。

また、申請には事前予約が必要ですので、WEBまたは電話で予約を取らなければなりません。

さらに、現状では、全ての法務局支局・出張所がこの制度に対応していませんので、保管対応の可否については事前に問い合わせをした方が良いでしょう。

申請書式

以下の書類を提出します。

・遺言書

・保管申請書

・添付書類(住民票の写し等、(外国語で作成した場合)遺言書の日本語訳文)

・顔写真付きの官公署から発行された身分証明書

・手数料

遺言書の様式

保管する遺言書は、法律で定められた自筆証書遺言の要件を満たすほか、法務局の指定する様式を満たしていることが必要です。法務局の指定様式は以下に説明します。

遺言書用紙

サイズはA4サイズに限定されます。

用紙は、記載した文字が読みづらくなるような模様や彩色がないものです。

一般的な罫線はあっても問題ありません。

記入上の注意

必ず余白を確保しなければなりません。(上部5mm、下部10mm、左側20mm、右側5mm以上)

片面のみに記載します。

各ページにページ番号を、余白内に記載します。

ページ番号は、総ページ数も分かるように記載します。(例:1/2、2/2)

遺言者の氏名は、ペンネーム等は使用せず、戸籍通りの氏名を記載ます。

消えるインク等は使用せず、ボールペンや万年筆などの消えにくい筆記具を使用します。

提出する遺言書は封印したり、ホッチキス等で綴ってはいけません。

手続きの終了

遺言書、申請書及び添付書類に問題がなく、手数料の納付が済むと、手続が終了します。

手続の終了後に「保管証」が交付されます。

保管証の再発行はありませんので、慎重に保管して下さい。

また、相続人や信頼できる人に、自筆証書遺言保管制度を利用していることを知らせ、保管証のコピーを渡しておくと、万が一の際にも混乱が少なくなると思われます。

保管後にできること

保管手続き終了後に行うことのできる手続きは以下の通りです。

これらの手続きの際に、保管証に記載の内容(特に保管番号)が必要になります。

遺言書の閲覧

遺言者は、遺言書の保管されている法務局に出頭して、保管されている遺言書を閲覧することができます。

保管の撤回

遺言者は、遺言書の保管されている法務局に出頭して遺言書の保管申請を撤回できます。

この場合、遺言書は法務局から返還され、法務局のデータベースからも情報が削除されます。

変更の届出

遺言者は、以下について変更ある場合は速やかに法務局に届け出が必要です。

・遺言者自身の氏名、出生の年月日、住所、本籍(又は国籍)及び筆頭者

・遺言書に記載した受遺者等・遺言執行者等の氏名又は名称及び住所等

・「死亡時通知」対象者に変更が生じた場合

「死亡時通知」は、遺言者本人が死亡したとき、事前に本人が指名しておいた1名に対して、法務局で遺言書が保管されている旨の通知が送られる制度です。

自筆証書遺言の保管制度の特徴

メリット

自筆証書遺言の紛失や廃棄などを防ぐ効果があることは、前述した通りです。

その他にも、自筆証書遺言の保管 制度を使用した場合には「検認」が不要となります。

検認が不要なので遺言執行はスピーディーに行うことができますので、相続人にとってこれが保管制度の最大のメリットになるかと思います。

注意点

法務局は、自筆証書遺言の保管前に確認を行いますが、これは日付や署名・捺印、ページ番号の記入有無、余白が適当かなどの形式上の確認に留まります。

法務局は、自筆証書遺言の記載内容が不明確であるとか、複数の解釈が可能であるなど、意味的な確認や法的効果などの確認は行いません。こうした問題が内在した遺言を残してしまうと、遺言の効力発生時に相続人間の紛争となる可能性があります。

出来る限り、自筆証書遺言の作成前に専門家に相談して、意味的な内容や法的効果について相談しておくことをお勧めします。