意思能力と行為能力
意思能力
遺言が有効に成立するためには、遺言をする時にご本人(被相続人)が意思能力を有してることが必要です。意思能力を欠いた人の遺言は無効とされます。
ここでいう意思能力とは、「自分の行為の意味と結果を理解できるだけの意思の力」を指します。
こうした能力は、一般には6~7歳頃から次第に備わるものとされていますが、法律行為の種類および内容に応じて要求される意思能力の程度は異なってきます。
行為能力
意思能力の不十分な人が、そのために被害を受けることは、あってはならないことです。しかし、日常生活において、取引のたびに意思能力の有無を確認することも現実的ではありません。
そこで、法律ではある程度の客観的基準を定め、家庭裁判所の判断によりその基準を満たさない人を制限行為能力者として定めることにしています。制限行為能力者には、成年被後見人、被保佐人、被補助人、未成年者がありますが、これらの制限行為能力者の法律行為は、事後に取り消すことが可能になっています。
遺言においては、制限行為能力者に関する規定は適用されません。遺言に相応しい意思能力を備えていれば、遺言をすることができます。
ただし、未成年者の遺言については年齢制限が定められています。
成年被後見人の遺言
前項で、遺言に相応しい意思能力があれば遺言が可能と書きましたが、成年被後見人については事理弁識能力(意思能力)を欠いた状況にありますので、後に意思能力の有無について争いが生じないようにするため厳格な規定が定められています。
認知症の方には好不調の波がありますので、成年被後見人の方でも事理弁識能力(意思能力)を一時的に回復することがあります。こうした時には、遺言をすることが可能とされています。
ただし、こうした場合には、遺言の席に医師が2名以上立ち合い、かつ「遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理弁識能力を欠く状況でなかった」旨を遺言書に付記して、これに署名・捺印をすることが必要です。
また、こうした状況では自筆証書遺言は困難と推測されますから、さらにこの場に公証人の同席も必要となりますので、実現にはかなり高いハードルがあります。
遺言と年齢制限
一般の取引では、満20歳に満たない未成年者の行った法律行為は、後に取り消すことができます。
これに対し、遺言では満15歳に達していれば、親権者の同意なしに、単独で行うことが可能です。
逆に15歳に満たない人の遺言は無効となります。
遺言能力に関する係争
遺言に関する係争において遺言能力に関することは多いのですが、遺言能力の有無は機械的に判断することはできない性格のものです。
裁判例を見ても、様々な事象を総合的に判断しています。以下項目はその一例です。
- 診療記録、看護記録に基づく専門家による鑑定
- 遺言作成過程の検証:本人が積極的な意思があったのか、周囲の働きかけがあったのかなど
- 遺言当時の言動から、常識的な意味での判断力の有無を推測
- 遺言内容が、第三者からみて合理的なものか
遺言を作成した場合は、後々の紛争予防の観点からも、上記に関わる状況説明資料を残しておくことも重要なことです。