成年後見制度の理念

現状の成年後見制度は、平成12年4月1日に施行されたものです。これは認知症や知的障害・精神障害など、判断能力が不十分な方の権利を擁護し、支援することを目的とした制度です。判断能力とは、要するに、契約を締結するための判断能力のことです。

この成年後見制度の理念は、以下の3点となっています。

  1. 自己決定の尊重、
  2. ノーマライゼーション
  3. 残存能力の活用

1番目の「自己決定の尊重」は、判断能力が衰えていたとしても、ご本人の意思を最大限に尊重しようとする考え方です。

2番目の「ノーマライゼーション」とは、障がい者や認知症などの高齢者を特別なグループとして社会から隔離するのではなく、可能な限り社会の一員として地域社会で通常の生活が送れるような環境や条件を作り出そうとする考え方です。

3番目の「残存能力の活用」は、ご本人が今なお有している能力を最大限に引き出そうとする考え方です。

簡単にまとめますと、ご本人の意思や意向を尊重しながら、特別視したりしないで、地域での日常生活を継続していただくということでしょう。

成年後見制度の種類

成年後見制度は、判断能力が不十分な人が利用する「法定後見制度」と、判断能力があるうちにあらかじめ将来のことを決めておく「任意後見制度」の2種類があります。

法定後見制度

本人の判断能力が衰えたときに、家庭裁判所に後見開始の審判等の申立てを行うことにより、法定後見を開始させるものです。支援の具体的内容は、法律に規定された条文の内容、および家庭裁判所の審判の内容に依存します。

法定後見制度は、ご本人の判断能力の程度によって3類型(後見・保佐・補助)に分かれています。類型に応じて、成年後見人・保佐人・補助人(以下、「後見人等」)が選任されます。後見人等は、本人の意思を尊重し心身の状態や生活の状況に配慮しながら、財産管理や身上監護についての契約や手続きを代理・同意・取消しなどの方法で支援します。

任意後見制度

任意後見制度とは、ご本人の判断能力が衰える前に、信頼できる人と任意後見契約を結んでおき、ご本人の判断能力が衰えた後に、任意後見契約を発効させて任意後見を開始させるものです。

誰を任意後見人にするか、任意後見人にどのような権限を委任するかなど、支援の具体的内容は、任意後見契約のなかであらかじめ決めておきます。そのため、ご本人の意向や希望が、後見に反映されやすくなります。

これらの制度の内容については改めて詳しくご紹介をいたします。

後見人等の役割

後見人の果たす役割は何なのでしょうか。大きくは財産管理と身上監護に関する事柄に分類されますが、具体的な内容について見ていきましょう。

ただし、対象となる方の判断能力の程度に応じて、後見人等の権限範囲は異なってきますので、後見人等はこんなことをしているのだという、ご参考としてご覧ください。

財産管理

  • 通帳や権利証などの保管
  • 収支の管理
  • 重要な財産の管理
  • 金融機関との取引
  • 年金や賃料等収入の受領

身上監護

  • 本人の住居に関すること
  • 医療の契約などに関すること
  • 介護の契約に関すること
  • 施設入退所に関すること

家庭裁判所への報告

家庭裁判所への申請および報告を行います

後見人等ができないこと

  • 本人に代わって、婚姻・離婚・養子縁組を決めること
  • 身元保証人
  • 医療行為の同意
  • 掃除・洗濯、介護や看護など

成年後見の歴史

平成12年に施行された改正民法により、現在の成年後見制度は始まりましたが、それまでは禁治産制度・準禁治産制度が存在していました。旧制度の禁治産者が現行制度の成年被後見人に、旧制度の準禁治産者が現行制度の被保佐人に、それぞれ対応しています。

禁治産制度・準禁治産制度は明治31年に旧民法下で定められたもので、禁治産とは「精神上の障害等によって判断能力がないため、財産管理を禁じられた人」という趣旨です。禁治産者・準禁治産者は戸籍にその旨が記載されており差別的といわれていましたし、時代にそぐわない面も多く、改正に至ったようです。

旧法下の禁治産制度は、現在の成年後見制度と比べて次のような違いがありました。

  • 戸籍への禁治産者・準禁治産者の記載が行われた
  • 禁治産者に配偶者がいる場合は配偶者が後見人となり、配偶者がいない場合は家庭裁判所が後見人を選任する規定だった。
  • 禁治産者は自ら契約等の法律行為をできず、禁治産者のなした法律行為は日用品の購入から相続まで何でも取り消すことができた。
  • 準禁治産者には保佐人が付けられ、保佐人の同意なく準禁治産者がなした法律行為は取り消すことができた
  • 準禁治産の事由に「浪費者」があり、法律行為が制限された

以上の列記した事項から、旧制度では身上監護の考え方は見てとれず、財産権を中心とした制度であったことが分かります。また、禁治産者・準禁治産者のみの区分であり、補助人にあたる制度がありません。このように、ご本人に対するきめ細かい対応が考慮されていなかったことが見て取れます。