生前贈与の目的

相続は、ご本人(被相続人)が亡くなることで開始します。

一方、生前贈与とは、ご本人(被相続人)がご存命中に贈与をおこなうことです。

生前贈与の代表的な利用目的は、節税にあります。

つまり、生前贈与により相続税の対象となる財産を減らすことにより、将来に課税される相続税を軽減することです。相続税は累進課税で、相続財産が大きくなるほど税率が高くなりますので、相続財産を軽減することが意味を持ちます。

また、土地や不動産、株式などの将来価値が上がる可能性が高いものを、生前贈与することでも節税することができます。

例えば、生前贈与時に1000万円の土地が、相続時に3000万円に値上がりしていれば、2000万円の値上がり益を節税することができます。

生前贈与は、贈与時の価値に課税されますので、1000万円に贈与税が課税されます。その土地を生前贈与せず、相続対象となった場合には3000万に対して相続税が課税されることになるのです。どちらが節税になるかは、財産総額や、課税控除枠や税率によって異なりますが、値上がり益が課税対象から外れることは確かです。

ただし、政府では、生前贈与による節税を見直す方向にありますので、生前贈与による節税がいつまで可能なのかは不透明な状況です。

さらに、生前贈与では、法定相続人以外にも財産を引き継ぐことが可能です。例えば、お世話になった知人に財産を残したいのであれば、遺言書に知人への遺贈について記載する方法もありますが、生前贈与という選択肢も有効なのです。

生前贈与できる財産は、現金や預貯金、土地や建物、有価証券、車、船舶、家具、宝石、絵画などさまざまなものがあります。

贈与税の課税方式

贈与を行った場合、「贈与を受ける人」は贈与税を支払う必要があります。

「贈与する人」でなく、「贈与を受ける人」が納税義務者であることに注意して下さい。

贈与税の課税方法は「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つがあります。

特に手続きしなければ「暦年課税」が適用されますが、一定の要件を満たす場合に「相続時精算課税」の選択が可能となります。

暦年課税

暦年課税の概要

暦年課税制度は原則、毎年1月1日から12月31日までの間に贈与された財産の合計額が対象になります。

もし、この1年間に3人から贈与を受けたとすると、3人から贈与された財産の合計額が110万円を超えた場合、110万円を超えた分に対して贈与税が課税されるという制度です。

贈与税の課税対象となる金額の計算式は以下の通りになります。

  1年間の贈与額 - 110万円 = 贈与税の課税対象となる金額

贈与税額の計算式は以下の通りになります。

  贈与税の課税対象となる金額 × 税率 - 控除額 = 贈与税額

暦年課税の特徴

暦年課税の最大の特徴は、基礎控除額である年間110万円までなら非課税で贈与できることです。

贈与額が基礎控除額の範囲内なら贈与税がかからないため、贈与があったことを申告する必要はありません。

もう一つの特徴は、毎年繰り返して利用できることです。

1年間で110万円という控除額の枠内での贈与では、節税効果が少ないと思われるかもいらっしゃると思います。しかし、110万円の贈与を10年間続ければ、1,100万円を非課税で贈与することができることになります。

ですから、生前贈与は出来るだけ早くから始めることが重要になります。

注意点のひとつは、「110万円まで非課税」というのは、「贈与する側1人につき110万年」ではなく、「贈与される側1人につき110万円」ということです。つまり、何人から贈与されても、受贈者1人が1年間に贈与された額が110万円以下であれば、贈与税はかかりません。

逆に、贈与する側には制限がありませんから、複数のお子様やお孫様に贈与することが可能です。

注意点の二つ目として、「定期贈与」に注意するということがあります。

暦年課税の基礎控除である110万円の範囲で贈与をしていたとしても、「定期贈与」とみなされると贈与税が課税される場合があるからです。

「定期贈与」とは、あらかじめ多額の財産を贈与することを約束していて、それを定期的に分割して贈与することです。例えば、1000万円を贈与する約束で、毎年100万円ずつ10年にわたって贈与した場合は、定期贈与とみなされます。定期贈与とみなされると、総額の1000万円に対して贈与税が課税されることになります。

そのため、贈与契約書を作成し贈与の内容を明確にしておくこと、銀行振込などでお金の流れを記録しておくことで、「定期贈与」でないことを証明できるようにしてきます。

なお、相続開始前3年以内にご本人(被相続人)から贈与された財産は、生前贈与加算として相続税の課税対象となります。

この記事は、ここまでになります。

 

※この記事は「生前贈与とは②」に続きます。