※この記事は「相続税の計算 ④個人納付税額の計算」の続きです。
はじめに
「相続税の計算 ④個人納付税額の計算」の中で、相続税計算の最終段階である税額控除(同記事の図中⑳)について説明しました。
本記事は、この税額控除の一つである「配偶者の軽減税額」について説明するものです。
世間では「配偶者には相続税はかからない」などと言われています。そのような話しが流布されるほどに、配偶者の相続税負担は優遇されています。
その背景には、被相続人の財産形成に対する配偶者の貢献を評価したり、配偶者の老後の生活保障などに考慮することがあります。
また、配偶者に対する相続税は、被相続人からその配偶者への同一世代間の財産転移であり、次の相続(2次相続)が比較的短い時間間隔で起こり、その際に相続税が課税されるという側面もあります。
控除の対象となる配偶者
配偶者の軽減税額が受けられるのは、「婚姻の届出」がなされている配偶者に限られます。
事実上婚姻関係と同様の事情にある場合においても、婚姻の届出をしていないいわゆる「内縁関係」の場合には適用がありません。
一方、配偶者であれば、制限納税義務者であっても、または配偶者が相続を放棄している場合であっても、この控除を受けることができます。
控除額の計算
この控除は、配偶者が実際に取得した正味の遺産額が「1億6,000万円」または「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか多い金額までは、配偶者に相続税はかからないというものです。
控除額の計算式は以下お通りになります。
<配偶者の税額軽減額>
相続税の総額 × (AまたはBのいずれか低い金額)/課税価格の合計=税額軽減額
A:「1億6000万円」または「配偶者の法定相続分相当額」のうち多い方の金額
B:配偶者の課税価格
控除を受ける要件
分割要件
配偶者の軽減税額は、相続税の申告期限までに、財産の全部または一部分割されていない場合には、その分割されていない財産については、課税価格の計算の基礎になる財産に含まれません。簡単に言うと、未分割財産については適用されません。
ただし、申告期限までに分割されていない財産については、次の何れかに該当する場合には、「更生の請求」によりこの特例を適用することが可能になります。
①申告期限後3年以内に分割が行われた場合
②申告期限後3年以内に分割できなことについてやむを得ない事情があり、所轄税務署長の承認を受けた場合で、分割できることになった日から4ケ月以内に公正の請求がなされた時
また、申告期限までに分割されていない財産について、申告書の提出期限後に分割された場合に、この特例の適用を受けようとするときは、「申告期限3年以内の分割見込書」を、相続税の申告書に添付して提出しておくことが必要です。
さらに、申告期限後3年経過日に、相続に関する訴えの提起がされているなど、やむを得ない事情がある場合には、申告期限後3年経過日から2ケ月以内に「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申告書」を提出しておく必要があります。
申告要件
配偶者の軽減税額を受けるためには、申告期限までに相続税の申告書を提出しなければなりません。
申告書には、この特例を受けようとする旨を記載すると共に、必要事項を記載の上、一定の書類(戸籍謄本、遺言書または遺産分割協議書の写しなど)を添付することが必要になります。
隠ぺい等のないこと
相続税の納税義務者が、財産の全部または一部を隠蔽もしくは仮想していた場合には、この控除額の計算にあたって「配偶者の課税価格」には、その隠蔽または仮装していた財産額は含まれません。
この記事はここまでになります。