遺言による家族信託組成とは

信託は、原則として、委託者・受託者・受益者のあいだの契約によって成立するものです。このことは本ブログでもご説明してきた通りです。

しかし、信託法では遺言による信託組成を認めているのです。条文は以下の通りです。

信託法第3条 (信託の方法)
信託は、次に掲げる方法のいずれかによってする。
一  (略)
二  特定の者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の遺言をする方法
三  (略)

つまり、被相続人となる方が遺言書を作成し、遺言書の中に信託条項を書き込むことによって、家族信託を設定できます。

ただし、被相続人(=遺言者)の単独行為によって家族信託を設定することになりますから、信託契約による設定とは異なる注意点が存在します。

遺言による家族信託の設定における注意点

信託の内容を明確に記述する

信託契約によるものであっても、遺言によるものであっても、家族信託の内容はその組成行為で定められる条項によって決定されます。
そのため、遺言によって家族信託を設定する場合にも、信託契約に規定するものと同程度に詳細な内容・ルールを書き込んでおくことが必要になります。

信託条項を慎重に検討し、遺言書の中に記述しておかないと、遺言者の意思が信託スキームへ反映されないこともありますし、後のトラブル発生の原因になりかねません。そのため、信託組成の齟齬を予防するため法律専門職の関与を依頼することをお勧めします

自筆証書遺言の場合には、信託に関する条項は手書きすることが必要とされていますので、かなりの分量になることが見込まれます。そのため、現実的選択として遺言の形式は公正証書遺言とすることをお勧めします。

受託者に事前に了解を得ておく

遺言によって家族信託を設定する場合、受託者の事前同意は必ずしも要求されません。

しかし、遺言によって家族信託の受託者に指名された者は、信託の引受け(=受託者への就任)を拒否することが認められます。ですから、受託者に事前に話を通さず遺言者の独断で家族信託を組成した場合、受託者に就任を拒否されてしまう可能性があります。

受託者が就任を拒否した場合、申立てにより裁判所が受託者を選任します。こうなると、裁判所が選任した受託者が、当初予定していた受託者と同様に信頼できるとは限りません。遺言者の意思に反する場合すらありえます。

受託者の就任拒否によるトラブルを防ぐためにも、遺言によって家族信託を設定する場合には、事前に受託者に対する説明を行い、就任に関して了承を得ておくべきです。

遺言による家族信託の用途

被相続人(=遺言者)の死亡によって、遺言は効力を発揮するものです。契約による家族信託の場合では、被相続人の認知症対策が多くの場合目的に挙げられますが、遺言による家族信託ではこれ以外が目的とされることになります。

目的として多いのは、相続人=受益者が意思能力・判断能力に欠けていて、それを補う目的で家族信託を設定する例が多いようです。

(1)認知症の妻の生活費確保

配偶者(妻)が認知症を発症していると、ご自分で財産管理をすることができませんから、財産は凍結されてしまいます。妻に法定後見人をつけないと、相続財産を管理・処分できないということになります。法定相続人には、見知らぬ専門職後見人が就任する可能性が高いことは、以前のメルマガでご説明した通りです。

そこで、例えば、受託者を長男として財産を託し、受託者(長男)は受益者(妻)のために財産を管理・処分して、妻の生活費などを給付するという様な内容の信託を組成するようにしておくという例です。

(2)親が亡くなった後の子供の養育

障害を持ったお子様の場合も、ご自分で財産管理をすることができないため、財産が凍結されてしまうことがあります。
このようにお子様が自立して生活が難しい場合に、その子の成年後見人や未成年後見人を受託者、子を受益者として、定期的に子に金銭の給付を行えるようにすることも可能になります。

 

ただし、上記二例では「負担付遺贈」という選択も可能です。「負担付遺贈」とは条件をつけた遺贈のことです。例えば、「自宅不動産と預貯金を長男に遺贈するので、妻の面倒を終生見ること」のような遺言を作成しておくことです。

また、(2)の例では、遺言で未成年後見人を選任しておくことで解決できるかもしれません。

様々な選択が可能である場合には、それぞれの状況に応じて、最適な選択を行うことかと思います。

この記事はここまでになります。