遺贈の概要

相続人ではないですがお世話になった方に、相続財産を渡したいという場合もあると思います。こうしたときに、法定相続人以外の第三者に相続財産を譲り渡すために用いられる方法が遺贈です。

ただし遺贈は、第三者に対してのみ行うものではなく、法定相続人に対しても行うこともできますので注意が必要です。

遺贈は、ご本人(被相続人)が遺言することにより、指定した人に、自身の財産の全部または一部を無償で与えることをいいます。

相続では、財産を引き継ぐことができる相手は法定相続人に限定されます。しかし、遺贈では誰でも受遺者に指定することでき、財産を無償で与えることができます。ですから、息子の嫁や内縁の妻などの相続人でないに人に財産を渡したい場合には、遺贈をすることで可能になります。

このとき、遺贈をする側のご本人(被相続人)のことを「遺贈者」と言います。一方で、遺贈によって相続財産を与えられる側の人のことを「受遺者」と言います。

特定遺贈と包括遺贈

遺贈には,「特定遺贈」と「包括遺贈」があります。

特定遺贈

特定遺贈とは、受遺者に与えられる目的物や財産的利益が特定されている場合の遺贈のことを言います。

例えば、以下のような遺言です。

第〇条 遺言者は、遺言者の有する下記不動産を、遺言者の内縁の妻である甲(昭和〇年〇月〇日生)に遺贈する。
             記
          不動産の表示(省略)

しかし、相続人以外への不動産の特定遺贈には、包括遺贈や相続人への特定遺贈にはかからない「不動産取得税」がかかります。

また、特定遺贈の場合、財産を特定して遺贈するものであるため、特定した財産が既に処分されてしまった場合には、引き継ぐ財産がないということになります。

包括遺贈

他方、包括遺贈とは、遺産の全部または一定割合で示された部分を受遺者に与える場合の遺贈のことを言います。包括遺贈のうち与えられる遺産が全部の場合を「全部包括遺贈」と言い、一部割合部分のみの場合を「割合的包括遺贈」と言います。

全部包括遺贈の例は、以下のようなものです

第〇条 遺言者は、遺言者の有する一切の財産を、遺言者の内縁の妻である甲(昭和〇年〇月〇日生)に遺贈する。

割合的包括遺贈の例は、以下のようなものです

第〇条 遺言者は、遺言者の有する一切の財産の二分の一を、遺言者の内縁の妻である甲(昭和〇年〇月〇日生)に遺贈する。

包括遺贈により財産を引き継いだ人(包括受遺者)は、法定相続人と同様の権利と義務を持つ又は負うこととなります。つまり、包括受遺者は遺産分割協議に参加して、自分が取得する財産を相続人との話し合いで決めたり、遺贈者に負債がある場合には、包括遺贈で指定されている割合分、負債を負う義務が生じます。

しかし、包括受遺者には代襲相続は発生しませんし、法定相続人ではありませんから遺留分も発生しません。

包括遺贈と包括遺贈の併存

一つの遺言のなかに、包括遺贈と包括遺贈の併存することも可能です。

例えば、以下のような遺言です。

第〇条 遺言者は、遺言者の有する下記不動産を、遺言者の弟である甲(昭和〇年〇月〇日生)に遺贈する。
             記
          不動産の表示(省略)
第〇条 遺言者は、遺言者の有する、前条記載の財産を除くその余の一切の財産を、遺言者の内縁の妻である乙(昭和〇年〇月〇日生)に包括して遺贈する。

遺贈の放棄

遺贈の場合には、ご本人(遺贈者)の死亡後、受遺者はいつでもその利益を放棄することができます。

遺贈が放棄されると、遺贈の対象になった財産は、相続開始時点に遡って相続財産に復帰します。つまり相続の対象になります。

ただし、包括遺贈において受遺者は相続人と同一の地位を取得しますから、遺贈の放棄は、相続放棄の手続きによることになります。

遺贈の無効

遺贈は法律行為として、その目的が公序良俗に違反する場合には無効となります。

内縁関係にある者とは、婚姻届出をしていないだけで社会的には夫婦と認められている者をいいますが、内縁関係にある者に対する遺贈は、原則として有効とされます。

しかし、内縁配偶者に法律婚をしている配偶者がいる場合は、重婚的内縁関係にあるとして公序良俗違反として遺贈が無効になる可能性があります。また不倫関係にある相手に対する遺贈も、無効になる可能性があります。

遺贈における注意点

遺留分

遺言はご本人(被相続人)の意思を尊重すべきとはいえ、相続人の期待も考慮する必要はあります。そのため、兄弟姉妹を除く法定相続人は、遺言によっても侵害できない「遺留分」が与えられています。

遺贈によって遺留分を侵害された法定相続人は、受遺者に対し遺留分侵害額を請求することが可能です。遺贈をする場合には、遺留分について十分に注意をしておかなければなりません。

遺贈された不動産

不動産の遺贈を受けた者は、その旨の登記を経なければ第三者に対抗できません。

そして、登記手続きは、包括遺贈の場合を含めて、受遺者を登記権利者、相続人全員あるいは遺言執行者を登記義務者として共同申請によりなされることが必要となります。

遺贈における相続税

遺贈があった場合に支払う相続税の額の計算方法は、通常の相続があった場合に支払う相続税の計算方法と基本的な違いはありません。

しかし、第三者が遺贈を受ける場合には、法定相続人にかかる相続税の1.2倍を支払うことになります。また、通常の相続税には「基礎控除」(3,000万円+600万円×法定相続人の数)がありますが、遺贈の場合はこの基礎控除の対象外になります。