予備的遺言の意義

例えば、夫が「全財産を妻に相続させる」という遺言書を作成していた場合、夫より先に妻が亡くなってしまうと、この遺言は無効となり、遺言がなかったと同じ状態になってしまいます。

このような場合には、遺言者が改めて遺言を作成できれば良いのですが、その時点で遺言者に遺言能力がないと、新しい遺言を作成することができません。

遺言が無効になってしまうと、遺言者が亡くなった後は、相続人全員で遺産分割協議を行い、財産の帰属を決定することになります。相続人が多数いらっしゃる場合や所在不明の方がいらっしゃると手続きに時間がかかりますし、相続人間で紛争があると相続の行方すら見えなくなってしまいます。

そうした事態に備えるのが予備的遺言です。

予備的遺言の書き方

予備的遺言とは、受遺者(上記事例では妻)が死亡するなどの事態が発生したときに備えて、遺言書の中にさらに次の受遺者などを指定しておくものです。

遺言には条件を付けることができますので、予備的遺言も上記事例では「遺言者(夫)の死亡前の配偶者(妻)の死亡」を停止条件とする遺言として、有効に成立します。

以下に予備的遺言を例示します。

第〇条  遺言者は、遺言者の有する一切の財産を、遺言者の妻である
    甲(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。
第〇条 上記甲が遺言者より以前に死亡したときは、遺言者は、前条
    で上記甲に相続させるとした財産全部を、遺言者の二男乙
    (昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。

ただし、この例示では、夫と妻が同一事故に遭遇して同時に亡くなった場合には、予備的遺言が有効になりません。何故なら、法律は「先に亡くなった」場合と、「同時に亡くなった」場合を別ケースとして厳密に分けて考えるためです。

そこで、「同時に亡くなった」場合にも対応可能な予備的遺言は以下のようになります。

第〇条 遺言者は、遺言者の有する一切の財産を、遺言者の妻である
    甲(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。
第〇条 上記甲が遺言者より以前に死亡(同時に死亡した場合も含む。)
    したときは、遺言者は、前条で上記甲に相続させるとした財産
    全部を、遺言者の二男乙(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。