相続における債務の取扱い

被相続人には不動産や金融資産などのプラスの財産ばかりでなく、借金などのマイナスの財産(債務といいます)があることも多くあります。

相続は、被相続人に属する一切の権利・義務を承継するものですから、プラスの財産に加えてマイナスの財産も相続の対象になります。

そこで、相続において債務がどのように取り扱われるかを見ていきましょう。

債務の相続割合

相続の原則として、相続人は相続分に応じて被相続人の財産(権利義務)を承継します。また、遺言によって相続分の指定がある場合には、法定相続分に応じた割合により債務を承継するものとされています。一方で相続人同士の関係においては、遺言によって相続分の指定があった場合には、債務の承継も指定相続分に応じた割合になるとされます。

この説明では分かりづらいと思いますので、事例を挙げて説明したいと思います。

相続人が長男と二男の2人で、法定相続通り遺産分割したとき
同順位の相続人が二人ですから、長男と二男は2分の1ずつ財産を継承します。
債務(借金)は、法定相続割合に従い、長男と二男はそれぞれ「2分の1」ずつを債権者に返済しなければならないのが原則です。
相続人が長男と二男の2人で、遺言で長男に全財産を相続させる遺言をしたとき
遺言で遺産全部を長男に相続させる場合には、財産の全額を長男が承継することになり、債務についても長男が全額を承継することになります。
債務(借金)の全額を長男が継承することになりますが、これはあくまで相続人同士の内部関係に留まります。債権者(借金の貸主)に対しては法定相続割合に従い、長男と二男はそれぞれ2分の1を返済しなければならないのが原則です。
これは、遺言者の意思により、マイナス財産(債務)の承継割合を、債権者の了解もなく一方的に変更するのは不当だという考え方に基づいています。
もし、債権者(借金の貸主)からの請求に応じて、二男が借金の一部を返済したときは、長男と二男の間では債務は長男が全額負担するという合意ができていますので、二男は返済した金額を自分に支払うよう長男に求償することができます。
また、お金の貸主(債権者)は、兄弟間で成立した債務はすべて兄が負担するという遺言の効力を承認することができます。これを承認した場合は、長男に対して借金全額の返済を請求することができ、二男に対しては返済を請求できなくなります。
不可分債務の場合
これまで説明してきた借金などの債務は、分割可能な債務でした。
しかし、数量的に分割することができない債務もあります。これを不可分債務といいます。
例として以下のようなものが挙げられます。
・物の引渡債務(例:生前に売った自動車を、買主に引き渡す義務)
・移転登記債務(例:生前に売った不動産の名義を、買主名義に書き換える義務)
相続人が2人いたとしても、それぞれが自動車の2分の1を引き渡すことはできません。
そこで、不可分債務は、相続人全員が債務全体を履行する義務を負っており、誰か一人が履行すれば債務が消滅するということになっています。

相続されない債務

例外として、相続対象とされない債務があります。

一身相続性のある債務

被相続人に一身専属性のある債務は相続されません。

一身専属性のある債務とは、扶養義務や婚姻費用分担義務など、身分法上の義務が該当します。

民法に規定がある債務

民法において当事者の死亡を契約関係の終了事由とするものは、被相続人の死亡時に既に発生している金銭債務を除き、契約関係上の債務は相続されません。具体的に以下のようなものがあります。

 ・定期贈与

 ・使用貸借

 ・委任

 ・組合

判例のある債務

包括的根保証契約に基づく保証人としての地位、並びに身元保証契約に基づく身元保証人としての地位は、判例上、特段の事情がない限り相続されないとされます。
これらの契約に基づく債務で、被相続人の死亡時に既に発生しているものは相続の対象になります。