遺言と異なる遺産分割協議は可能でしょうか
遺言は遺言者の最後の意思表示であり、非常に強い効力を持っています。
そのため、遺言者が遺言に指定した以外の遺産分割を禁じている場合には、遺産分割をすることはできません。
では、遺産分割を禁じる内容の無い遺言については、遺言と異なる遺産分割が可能なのでしょうか。
相続人全員が遺言の存在、内容を知っている場合
相続人全員が遺言の存在と内容を承知した上で、遺言と異なる遺産分割をすることに合意する場合がありえます。遺言書の内容と異なる遺産分割をした方が、相続人全員にとって合理的で好ましいという場合には、相続人全員の合意により遺言と異なる内容の遺産分割協議を成立させることができるとされています。
遺言の効力及び遺産の分割方法は、公益性の高い事項ではなく、当事者が任意に処分することが許されている事項と考えられているためです。
ただし、遺言が有効になった時点で、「相続させる遺言」などでは各共同相続人に権利が帰属することになりますから、厳密にいうと、各共同相続人に帰属した財産を、協議によって交換・贈与・和解などにより再分割する手続きになると考えられます。
ある相続人が、遺言書を隠匿した場合
遺言により不利な相続となる相続人が遺言書を隠匿したことにより、その結果として他の相続人が遺言の存在を知らずに遺産分割をしてしまったような場合です。
この場合には、遺言書を隠匿した相続人は相続欠格者となり、その遺産分割協議は無効になります。
その後、相続欠格者を除いて、遺言の執行を行う、あるいは再度の遺産分割協議を行うことになります。
第三者への遺贈の遺言を知らず、相続人だけで遺産分割協をした場合
第三者へ遺贈する内容の遺言が存在するにもかかわらず、その遺言を知らずに、共同相続人だけで遺産分割協議をしてしまった場合です。この場合には、遺言の効力発生時に、遺贈により第三者に帰属した財産を、遺産分割の対象としてしまったことになります。この場合、各相続人は、民法911条によりその相続分に応じて売主と同様の担保責任を負うことになります。
そのため、受遺者に遺贈されている財産を取得した相続人は、他の相続人に対して、遺産分割協議の解除をし、さらにその相続人が遺産分割時に遺贈の事実を知らなかったときには、損害賠償の請求も出来ることになります。
また遺贈された財産が遺産分割により取得した財産の一部である場合は、残存部分だけでは取得しなかったという場合には、遺産分割協議の解除または損害賠償請求を行うことになります。
また、遺贈が包括遺贈であった場合には、包括受遺者は相続人と同じ権利義務を有しますので、遺産分割協議には加わるべき当事者となります。したがいまして、遺言の存在を知らずに包括受遺者を除外した遺産分割協議は無効であり、包括受遺者を加えての再協議を行う必要があります。