※ 本記事は「認知症と遺言」の続編になります。

認知症の方が成年被後見人等になったら

前記事では、認知症の方が作成した遺言は、裁判所がその方に残存する意思能力の程度により、有効性を個別に判断することを説明しました。

それでは、認知症の方が成年被後見人、被保佐人、被補助人になった場合はどのようなるのでしょうか。

成年被後見人と遺言

成年被後見人とは「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」であって、家庭裁判所によって後見開始の審判を受けた方のことです。

ここで、精神上の障害とは、認知症のほか知的障害や精神障害などを指します

「事理を弁識する能力」とは、まさに「意思能力=遺言能力」のことを意味しますので、これが欠けた状態であれば遺言をすることはできないことになります。係争になれば遺言能力は否認されますし、成年被後見人の登記がありますから、遺言書をもって不動産の移転登記をすることもできません。

それでは、成年後見人は遺言を代理することはできるのでしょうか。成年後見人は、本人に代わって法律行為などを行うことが重要な使命になっています。しかし、遺言は単なる財産上の行為ではなく、身分行為を含むものであるため、代理で作成することはできないとされています。つまり、遺言ができるのは本人に限られるということになります。

そうなると、成年被後見人は、遺言を作成することは全くできないのでしょうか。

精神上の障害を持つ方は、症状の現れ方に波があると言われています。そのため法律では、成年被後見人であっても一時的に事理を弁識する能力が回復することがあれば、遺言をすることができるとしています。ただし、以下のような厳しい要件が課されます。

 ・医師2人以上が立ち会うこと。

 ・作成された遺言書に、医師が「遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった」ことを付記して署名押印すること。

こうした手続きによる遺言の作成には、成年後見人の同意も必要ありませんし、成年後見人が遺言を取り消すこともできません。

ただし、現実的にこの厳しい条件を満たして遺言書を作成することは極めて困難だと言えます。

被補助人・被保佐人と遺言

被補助人、被保佐人は、いずれも精神上の障害によって一定の判断能力が低下しており、その程度により被補助人や被保佐人として家庭裁判所の審判を受けた方です。

被補助人と被保佐人の判断能力低下の定義は以下の通りとなっています。

被補助人精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者
被保佐人精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者

被補助人、被保佐人による、不動産等重要な財産を取得・喪失を目的とする行為、相続の承認・放棄、借金など一定の行為については、補助人・補佐人の同意が必要となります。しかし、遺言の作成に関しては、被後見人の場合と同じ理由で、補助人や保佐人の同意は必要ないとされます。

法律において、遺言者が被補助人・被保佐人であるというだけで遺言が無効となる定めはありませんので、遺言を作成することに制限はありません。

前記事である「遺言と認知症」に書いた内容と同じで、 被補助人・被保佐人の作成した遺言の有効性が係争になった場合は、裁判所は遺言時点の認知症等の程度により無効か有効かを個別に判断することになります。