はじめに

本ブログでは、遺言家族信託について多くの記事を書いてきました。

本記事では、 遺言家族信託 とは、そもそもどのような制度なのか、その違いを分かりやすく説明したいと思います。

制度の目的

まず、遺言とは財産継承をするための制度です。

遺言では、財産の行き先と割合、もしくは分割方法を定めることができます。

一方の家族信託は、財産継承と財産管理の両方を目的とする制度です。

ですから、家族信託は、財産継承という点では遺言と重複しますが、財産管理を行える点で遺言と異なります。

効力の発生

遺言は単独行為であり、遺言者の死亡の時から効力を発生します。

家族信託は、委託者と受託者の間の信託契約の締結時に効力が発生します。

ただし、信託契約に停止条件または始期が記載されている場合は、その停止条件の達成または始期の到来により、信託の効力が発生します。

信託契約における停止条件とは、停止条件を満たした場合に、効力が発生するというものです。例えば 「(親御様の)認知症による意思能力の低下」があったことを条件にして、信託の効力を発生させるようことをいいます。

ここでは「認知症による意思能力の低下」という分かりやすい例示をしましたが、実務においてはこの記述では定義が曖昧であるため、より具体的な内容を記述することになります。

財産承継

遺言では、ご本人(遺言をした人)の死亡の時点から効力が発生します。理論的には、ご本人(遺言をした人)の死亡時点において、相続人や受遺者が財産を承継することになります。

家族信託では、「①委託者の生前」、「②委託者の死亡した時点」、「③委託者の死亡後に、受益者や権利帰属者」に財産を承継することができます。

①委託者の生前に行われる財産承継は、贈与と類似の効果を発生します。②委託者の死亡した時点での財産承継は、遺言と類似の効果が発生します。③委託者の死亡後の財産承継は、民法では無効とされている「後継ぎ遺贈」と類似の効果を発生します。

家族信託では、特に③の世代を超えた財産の承継を定めることができる「後継ぎ型遺贈の信託」が認められることが、遺言と大きく異なる特徴です。

また、家族信託には、 倒産隔離機能があり ます。これは、ご本人(委託者)や受託者が「信託財産に関係のない多額の債務を負ってしまっても、信託財産は差し押えられない」というもので、将来、何か問題が発生した場合に、財産を保護することが可能になります。

身分に関する事項

最後になりますが、遺言は、財産事項だけでなく、子の認知であるとか未成年後見人の指定、相続人の廃除など、身分に関する事項を定めておくことができます。

これに対し家族信託は、あくまで財産に関する信託契約であり、ご本人(委託者)の身分に関する事項を定めることはできません。

この記事は、ここまでになります。