※この記事は「家族信託の管理・監督とは」の続きです。

後継ぎ遺贈型の信託の意義

受遺者の受けた遺贈の利益を、あらかじめ定めた期限の到来または一定の条件の成立により、他の者に移転させる遺言のことを「後継ぎ遺贈」といいます。

本ブログの「後継ぎ遺贈とは」の記事でも説明しましたが、現状において民法の遺言のスキームでは、このような複数世代に跨る「後継ぎ遺贈」は無効とされています。

しかし信託法の改正により、実質的に「後継ぎ遺贈」を実現することのできる「後継ぎ遺贈型の信託」が登場しました。

後継ぎ遺贈型の信託の特徴

「後継ぎ遺贈型の信託」とは、現在の受益者の有する信託受益権(信託財産より給付を受ける権利)が受益者の死亡により、予め指定された者に順次承継される旨の定めのある信託のことをいいます。

現行の民法では無効とされている数次相続における後継ぎ遺贈を実質的に可能にする手段として、「事業承継問題」、「親亡き後問題」、「配偶者亡き後問題」を抱える方のニーズに応えうる信託と言えます。

法的には、受益権の承継回数に制限はなく、順次受益者が指定されていても構いません。ただし信託期間は、「信託開始から30年を経過後に新たに受益権を取得した受益者が死亡するまで」又は「当該受益権が消滅するまで」とされています。つまり、信託開始から30年を経過した後は、受益権の新たな承継は一度しか認められません。

後継ぎ遺贈型の信託の期間

受益権の承継は、回数に制限はなく、順次受益者が指定されていても構いません。

ただし信託期間は、信託開始から30年を経過した後に、新たに受益権を取得した受益者が死亡するまでとされています。つまり、30年を経過した後は、受益権の新たな承継は一度しか認められません。

後継ぎ遺贈型の信託の利用事例

事業承継への利用

中小企業のオーナーが、自社の株式を信託した上で、後継者となる方を順に受益者として指定しておくことで、経営の空白期間が生じることなく円滑に事業を承継することができます。

例えば、「自分(父親)が亡くなったら長男に自社株を承継する。長男が亡くなったら、次男に自社株を承継する。」といったことを予め信託契約で決めておくことができます。

さらに、「次男が亡くなったら、孫に権利帰属者として自社株を引き渡す」ことも決めておくことができますので、この先30年とか40年先まで、争族もなく、事業の継承が可能となります。

親なき後問題への利用

両親がある程度の高齢者で、障がいを抱えるお子様がいる3人家族を想定しましょう。

この場合、高齢配偶者の生活・介護・療養・施設入所等の費用、さらに障がいのあるお子様の生活・教育・医療・介護等の費用について、親亡き後の遺産を長期にわたり安定的に管理し、必要な費用を給付することが必要になります。

こうした対応策としても、 後継ぎ遺贈型の信託 は有効となります。

例えば、父親の財産を信託した上で、「父親を第一受益者」とし、「父親が亡くなった後は配偶者を第二受託者」とし、「配偶者が亡くなったら障がいのあるお子様を第三受益者」として設定します(資産管理を行う受託者は、親戚や信頼できる専門家を想定します)。さらには、お子様が亡くなった時点を信託終了として、信託の残余財産があれば、その権利帰属者にお世話になった介護施設等を指定することも可能となります。

後継ぎ遺贈型の信託の注意点

家族信託は歴史が浅いこともあり、明文の規定がないことも多く、判例の充実を待っている状況です。

そのため、司法的に確定しておらず、注意すべき点がかなり残されています。

相続税の問題

後継ぎ遺贈型の信託の場合、受益者の死亡による受益権の承継が発生すると、受益権(元本受益権+収益受益権)が相続税の課税対象となります。

現行の税制においては、第二次受益者、第三次受益者は、受益権の継承するたびに相続税を納税しなければならない可能性があります。

信託は必ずしも節税のできる仕組みであるとは言えません。

遺留分の問題

相続に際しては、民法上、遺留分が発生することがあります。

信託が遺留分の対象外になるとの明文規定はありませんから、信託契約において遺留分に抵触する受益権の承継を定めていると、受益権の承継が発生するたびに、遺留分減殺請求を受ける可能性があります。これについて判例は確定していません。

財産管理のための制度であること

後継ぎ遺贈型の信託は、あくまで財産管理のための制度です。

ですから、信託の受託者には”身上監護権”がありませんので、受益者の入院手続きや施設入所手続きをすることはできません。身上監護が必要であれば、別途、成年後見制度を利用しなければなりません。

実務に精通した専門家が少ない

家族信託は、比較的新しい制度ですので、専門家なら誰にでも組成できる訳ではありません。
実際に私的契約のみ信託契約を締結し、問題が生じていることも聞いたりしています。
家族信託について知識と実務経験、そして倫理観のある方にご相談することが重要と考えます。

この記事は、ここまでになります。

 

※この記事は「家族信託終了後の財産の行方」に続きます。