※本記事は「家族信託の特徴とは」の続きです。

家族信託は契約行為であること

家族信託とは、成年後見制度を補完し、遺言相続に変わるものです。家族信託は当事者間に契約によって成立しますから、この契約は何十年にも渡って機能をすることが求められます。

そのため、法律専門家が家族信託を組成しても無効になることもあるくらいですから、信託契約書を作成できる能力のない方が、お一人でこの契約書を作ることは危険です。

必ず家族信託の専門家の関与を検討して下さい。

また、別の観点の課題もあります。

家族信託は、「委託者」「受託者」「受益者」の三者による契約によって成立します。

一般的には、親が「委託者」及び「受益者」になり、その子どもが「受託者」になります。そのため親が家族信託のスキームを理解して、納得してもらうことが前提になります。

ここで、家族信託は歴史が浅く、概念的に分かりにくい制度ということもあり、親御様の理解が得られないケースがありえます。

これに対しては、根気強い、丁寧な説明を続けるしかありません。

また、日頃からの家族との信頼関係を醸成しておくことも大切になるでしょう。

受託者の負担

家族信託契約は、契約時点から長期間にわたって続くものです。

家族信託契約の存続期間中は、当然ですが、受託者である子どもは家族信託契約の内容に拘束されます。しかし、受託者の負担は決して軽いものではありません。

例えば、建物を目的とした家族信託の場合では、受託者は建物についての管理義務が発生します。もしも、受託不動産の壁が崩れて通行人に怪我をさせてしまったような場合には、その損害を賠償する責任が発生します。その際に、信託をされた財産以上の賠償が必要になった場合、受託者は特約がないと無限責任を負うことになります。それはどういうことかというと、受託者が自分の財産から賠償額を補填しなければならなくなるということです。

また、受益者である親に対して、毎年、信託財産の収支を作成のうえ報告を行い、報告書類を保管をするという手間も発生します。信託財産から発生する収益が年間3万円を超える場合には、信託計算書・信託計算書合計表を作成して税務署に提出するという作業もしなければなりません。

さらに、毎年の確定申告の際に、信託財産からの不動産所得があると、不動産所得用の明細書の他に信託財産に関する明細書を別に作成して添付しなければなりません。

このように、受託者の責務を知ることにより、受託者の引き受け手がいないという事態が起こりかねません。

逆にいえば、受託者が自分にどのような責務が生じるか事前に確認をしておかないと、「こんなことになるなら、引き受けなかった」ということになりかねません。

節税にはならない

家族信託それ自体には、相続税を節税する効果はありません。信託開始に伴い不動産等の名義は受託者(子ども)に移りますが、一般的には委託者イコール受益者ですから、財産権(受益権)は親に残るためです。

親に相続が発生したときには、財産権(受益権)は信託契約であらかじめ決められた人に承継され、その時に相続税と同様の税額を納付する必要があります。

家族信託組成後に、不動産を買い替えたり、賃貸建物を建設したりして保有資産の組換えを行うことで、結果として相続税対策となることはありえますが、家族信託を組成するだけでは税務的なメリットは発生しません。

法律や体制の整備

家族信託は新しい制度ですので、現状では実務の面の整備が追いついていないことや、法律解釈や判例の蓄積の不足などがあります。

法律的課題としては、まず、信託財産が遺留分侵害請求の対象となるか否かが明確にはなっていません。特に、受益者連続型信託については、裁判所の判断を待っている段階です。

遺留分侵害額請求は大変強い権利ですから、現状では遺留分が発生しないように家族信託を設計することや、あらかじめ家族の合意を得ておくなどの方策をとっておくことも重要です。

また、信託口座口や既存担保物件の融資の取り扱いなど金融実務の整備が整っていないこともあります。信託口座口を設けている金融機関も限られていますし、家族信託契約に関する審査基準もまちまちです。

最後になりますが、家族信託はあくまでも財産管理のための制度であり、家族信託には身上監護権はありませんので、注意をして下さい。

認知症になった親が施設に入居するような場合に、受託者である子どもが親の代理人として入居契約をすることができなくなる可能性があります。入居した施設の費用を信託財産から支払うことはできますが、親の代理人として入居契約をする権限はありません。そのため、家族信託契約と任意後見契約を合わせて補完するなど、対策を考える必要がでてきます。